今月の法話



「子供を伸ばす三つの魔法の言葉」

 学校教育の傍ら、「母親心理学教室」という講座を開き、子育てに悩む世の多くのお母さん方に希望の灯をともされた方に山崎房一さんという方がおられます。

 その山崎さんの著書の一つに「子供を伸ばす魔法の言葉」と題した書物があります。

 この本は、子供たちへの深い愛情に根ざした山崎さんの教育論を通して家庭教育や学校教育の本当のあり方をアドバイスしたまことに素晴しい教育書です。

 題名が示しているように、本書には「魔法の言葉」によって、子供たちがみるみる変身を遂げていった具体例が数多く紹介されています。


 その一つに次のような話があります。

 山崎さんの「母親心理学教室」で学んでいたお母さんの一人に、中学二年生の問題児をえたお母さんがおられました。息子さんは長い間登校拒否を続け、たびたび両親に暴力を振るっていたそうです。

 何とか我が子に立ち直って欲しいと、お母さんは悲壮な思いでこの講座に通っていました。

 そんなある日、山崎さんの子育て論を深く理解されたこのお母さんは、命がけで自分よりはるかに大きい息子を後ろから抱きしめ、精一杯の愛情を込めて少年の耳元でこう告げたのです。


「お母さんはあなたが大好きよ」

「あなたはお母さんの宝物よ」

「どんなことがあってもお母さんはあなたの味方よ」


 お母さんのこの言葉に触れた息子は、突然その場に座り込み、お母さんに抱きついて大声で泣き出したそうです。

 その日以来、少年はぴたりと暴力を振るわなくなり、一週間ほど経ったある日「僕も夜間の中学に行けるかな」と言うまでになったそうです。

 お母さんが命がけで少年に告げたこの三つの言葉こそ、山崎さんの提唱している「魔法の言葉」なのです。

 山崎さんは、お母さんが深い愛情と優しさを持ってこの「魔法の言葉」を我が子に告げてさえあげれば、どんな子供でも必ず立ち直るとおっしゃっています。

「そんな簡単なことで・・?」と思われるかもしれませんが、子供は、自分を産み、この世ではじめて胸に抱いてくれたお母さんがもともと大好きなのです。

 ですから、その大好きなお母さんの「あなたが大好きよ」という一言が子供にとって「いのち」と同じくらい大切なのです。否、いのち以上といっても良いでしょう。

 子供はいつも大好きなお母さんの愛情を確認しています。そうして、お母さんの愛情をしっかりと確認できさえすれば子供は見違える様に伸び伸びと成長していくのです。

 山崎さんは「伸びている子供は例外なく安定した精神基盤を持っている」と語っています。

 その安定した精神基盤を作っているのが「お母さんは自分が好きだ。お母さんは自分を宝物だと思っている。お母さんはどんなことがあっても自分の見方だ」という意識なのです。

 ですから、子供の安定した精神基盤を作るためにはどうしても、この「魔法の言葉」が必要になってくるのです。自分のお母さんが大好きな子供は決して非行に走らないと山崎さんは断言しています。

 本書には家庭内暴力、登校拒否、非行といった家庭内の深刻な問題をいかにして解決していったか、その具体例が数多く紹介されていますが、その解決の鍵は唯一つ、我が子が心の底から親の愛を確認、できるかどうか、そこにあるのです。

 山崎さんがおっしゃっている親の愛というものは、まさしく阿弥陀さまの大悲の心に通じるものがあります。

 阿弥陀さまの慈悲の源は、私たちすべてが我が子であるというところから出ています。

 我が子である以上、どんな子供であろうとも決して見捨てることなく、心の底から慈しみ育み、いかなる時でも私の味方になってくださる。それが阿弥陀さまのお心です。

 そのままの私を無条件で認めてくださる愛です。

 その仏さまのお心を言葉にしたものが「南無阿弥陀仏」です。

 「南無阿弥陀仏」は阿弥陀さまの呼び声です。

 本書の魔法の言葉は、まさに「南無阿弥陀仏」を家庭教育の中で言葉にしたものだと思います。

 こうしてみますと山崎さんの教育論はお念仏のみ教えそのものです。

 そうして、その教育実践に「南無阿弥陀仏」の呼び声を取り入れられたと言っても良いでしょう。

 このところ、子供による残忍な事件が相次いでいます。

 しかも、事件を起こす子供の年齢が非常に低年齢化しています。

 その背景にはさまざまな要因があろうと思いますが、唯一つ言えることは本書のような家庭教育が施されていれば、決して起こることのない事件だと思います。

 家庭は厳しく鍛える訓練センターでもなければ、冷たく裁く裁判所でもありません。

 「許し」「励まし」「癒し」「安らぎ」の憩いの場所でなければなりません。そしてそこには「どんなことがあってもあなたの味方よ」と深い愛情を持って包み込んでくれる親の存在が必要なのです。

 そうすれば、子供は太陽の光を一杯浴びた若葉のように、何のしつけをしなくてもすくすくと伸びていくのです。

 著者の山崎さんは惜しくも平成5年65歳で亡くなられましたが、混迷する今の日本社会を思う時、このような子育て論がもっともっと多くの家庭に生かされることを願わずにはおれません。


「テレフォン法話」開設中 0897(53)4585


法話を聴くためにはフラッシュのプラグインが必要です。