「僕にできないこと。僕にしかできないこと」


 ここに「僕にできないこと。僕にしかできないこと」という一冊の書物があります。

 これは、進行性筋ジストロフィーという難病に冒されながら、不屈の精神力で、現在も福祉介護ビジネスの第一線で活躍されている春山満さんの半生を綴った自伝書です。

 大阪で不動産業を営んでいた春山さんに身体の異変が訪れたのは24歳の頃です。

 しばらくは気にも留めていなかったのですが、日を追うごとに身体の筋力が落ち、ついには走ることすら容易でなくなった春山さんは、やっとのことで病院の診察を受けるのです。

 診断の結果、「進行性筋ジストロフィー」と判明しました。

 担当の医師は春山さんにこう告げるのです。

「春山さん、この病気は筋肉の細胞膜を徐々に破壊していくもので、残念ながら今のところ治療法はありません。

 心臓が停止しない限り細胞膜破壊は続きます。まもなく車椅子になると思いますが、そのうち、首から下の運動機能がすべて失われ、食事もトイレも寝返りも打てなくなります。

 今、春山さんにアドバイスできることは、今日出来たことを明日も続けて下さい、ということしかありません」

 これを聞いた春山さんはショックを通り越して頭が真っ白になったと言います。

 まさに死の宣告です。

 しかし、春山さんはそんな絶望の淵から、すさまじい精神力で立ち上がっていくのです。

「失くしたものを勘定するのではなく、残っている機能を120%活かせればいいんだ。

 知恵を出して工夫すればきっと生き残れるし、社会参加も出来、経済的にも自立できる。」と考えたのです。

 いかなる困難な事態に陥っても決して希望を失わない、この前向きな生き方が、やがて福祉介護ビジネスで大成功を収める原動力になっていくのです。

 春山さんは、本書の中で次のように語っています。

『気がつくと、首から下の機能がすべて失われ、自分では寝返りを打てなくなっていました。

今では、首までぐらぐらするようになっています。首がぐらぐらするということは、病気がいよいよ僕にとって最後の砦である頭まで進行してきたということです。

 しかし、僕はそれを「えらいこっちゃ」とは思いません。「そんなら、次はヘッドレスト付きの枕にしたらいいな」と考えるのです。

 僕はこれまでずっとそういうふうにして、自分が機能を失くせば失くすほど、なんとかしてそれに対応する方法を見つけてきたのです。

 僕は悲観したり、後ろ向きに考えたりはしませんでした。常に自分が置かれた状況を素直に受け入れ、それで精一杯生きるためにどうずればいいか、と考えてきたのです。

 世の中には自分の置かれた状況に不満や文句ばかりいう人が実に多いのです。そういう人たちに対して「文句ばかり言う前に、己が行き抜くために本当に120%努力しているのか問え」と言いたいのです。

 機能を失った自分を不幸になったと見るのではなく「たとえ足は失われても、まだ手がありますよ」とにこやかに笑えるような人になって欲しいと思います。

 そうすればきっと、そこにチャンスが訪れます』

 こう語る春山さんの言葉に、私は「何と自分に甘い人生を送っているのだろうか」と、思い知らされました。

さらに、春山さんはこうも語っています。

『難病になって以来、僕の身体の筋肉は毎日毎日崩壊し続けています。手足の末端からはじまった「筋萎縮」は、やがて肺と心臓にまで及んでくるのはそう遠い日のことではないでしょう。

 肺が収縮を止め、心臓が鼓動を止める。その日が来るのを受け止める覚悟は出来ています。

 とはいっても、それは僕だけが例外だということではありません。

 考えてみると、健康な人でも実は毎日、筋肉は崩壊へと向かっているのです。

 それが50年、60年というワイドレンジなのか、僕のように10年というショートレンジなのか、という差があるだけなのです。

 僕は「人生というのは、本当に捨てたもんじゃないよ」と伝えたいと思っています。

 そして、その原点にあるものは、当たり前の幸せのありがたさ、今日一日のありがたさなのです。

 僕が今日もこうしていられるのは、みんなに生かされているからです。

 人間は決して一人で生きることは出来ません。大きな連鎖の中で、夫々に何かの役割を持って生きているのです。むろん、自分一人だけが成長しているわけではありません。

 みんなが成長しあっているのです。

 そういう中での今日一日、そして明日という日を考えながら、今晩も眠れる幸せ、僕はそういう当たり前の幸せのありがたさに、みんながもう一度目覚めてくれることを切に願わずにいられません。

 そこに気づけば、誰もがもっと強くなれると僕は確信しているのです。』

春山さんのこの言葉には、もはや解説は要りません。

 生かされている「いのち」に感謝しながら、与えられたかけがえのない一日一日を精一杯生き抜いていく。

 そうして、いかなる苦難に出遭っても、決してあきらめず、そこに希望の光を見出していく。

 そんな春山さんの人生は、まさに仏教のみ教えそのものです。

 この書物を読み終えて、私はただただ深い感動を覚えるばかりでした。


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