「衆議院選挙に学ぶ」
9月11日、衆議院選挙が行われました。
今回の選挙は小泉首相の制作、監督・主演による「劇場型選挙」と呼ばれ、近年これほど有権者の関心を高めた選挙はなかったように思います。
選挙結果は、小泉首相の率いる与党の圧倒的勝利に終わりましたが、私は、今回の選挙を通じて色々と教えられることがありました。
その一つは、 「ピンチはチャンスである」ということです。しかも、そのピンチが大きければ大きいはど、チャンスもまた、大きくなるということです。
自らの政治生命をかけて、郵政民営化法案の成立を目指した小泉首相でしたが、身内であるはずの自民党内から法案反対の造反者が多数出て、ついには参議院で否決されるという最大のピンチに立たされることになりました。
しかし、小泉首相はこのピンチにひるむことなく、法案否決を受けるや、それならばこの郵政民営化の是非を国民の皆さんに聞いてみたいと、直ちに、衆議院の解散総選挙に打って出たのです。
これまでの自民党のやり方ですと、法案を継続審議にしたり、造反議員と話し合いを持つなどして、何とか丸く治めようとしたでしょうが、小泉首相はそうしませんでした。
もし、そうしておれば、首相としての指導力が失われ、更に苦境に立たされたでしょう。
小泉首相が、こうした従来の手法を取らなかったのは、この法案の否決は「ピンチではなくチャンスなのだ」という発想の転換があったからだと思います。
ここが非常に大事なところだと思います。
政治と宗教を同列視することは出来ませんが、この「発想の転換」は、いかなる苦難をも、お念仏を喜ぶご縁に転じていくという浄土真宗の教えに共通するものを感じます。
「転ずる」ためには、何が来てもかまいませんという強い精神力と、それを自らの恵み(利益)に変えていくという確かな智慧が必要です。
浄土真宗では、その強い精神力も確かな智慧もすべて阿弥陀さまの本願力のお働きによって与えられるものだと示されていますが、今回の小泉首相のピンチに屈しない強い精神力と、それをチャンスに変えていった智恵には学ぶべきことがあったと思います。
また、今回の選挙を通して、今一つ教えられたことは、 「捨万求一」という戦法を選挙戦に取り入れたということです。
聞くところによると戦国武将の戦法の一つだそうですが、これは「目の前にあるさまざまな問題の中で、一つだけ選び出し、そのこと一つの解決に全力をあげる」という意味です。
今回の選挙で言えば、郵政民営化以外にも、外交問題や年金問題など選挙の争点は色々あったはずですが、小泉首相は選挙の争点を郵政民営化一つに絞り、その実現に全力を挙げ
ると、有権者に訴えました。
これは、一見単純な選挙戦法のようでありますが、ここには大変重要なことが含まれていると思います。
まず、一つに絞るということは、さまざまな問題の中で、今、何が一番大事であるか、それを見極める確かな判断力が必要になります。
そうして、その一番大事な問題一つを本当に解決することが出来れば、実は他の問題の解決の道も自ずと開けてくるということです。
逆に、あれもこれも求めていくことは、 「二兎を追うものは一兎も得ず」と言われるように、却ってどれも中途半端に終ってしまう危険性があります。
選挙の争点を一つに絞ったということは、それ以外の問題を捨ててしまうということではなく、あらゆる問題を解決する突破口であったのです。
こうした考え方は、私たちの人生に大いに参考になります。
私たちも、さまざまな問題を抱えながら人生を歩んでいますが、その解決に当たる時、あれもこれも解決しようとするのではなく、その中で何が一番大事な問題なのか、それをま
ず選び出し、そのこと一つの解決に全力を上げるということが大事なことになります。
そうして、その間題の解決を図ることが出来れば、他の問題も自ずと解決の道が開けてくるのだと思います。
仏教には、一即一切・一切即一」という言葉があります。
直訳すれば「一つの中に一切のものが含まれ、一切のものは一つに集約される」というこ
とですが、これを実生活の上で具体化すると、 「捨万求一」ということになるのだと思いま
す。
今回の衆議院選挙を通して、以上のようなことを教えられましたが、いずれも、その底には、仏教の教えに共通するものが流れていることを感じました。
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