法話をお聞きになる時は、プレイをクリックして下さい。

智慧ある人生  H22.3

毎年、お盆とお正月にご懇志を送って下さる門徒さんの中にKさんという方がおられます。
今回ご懇志と一緒に、ご自身の近況を綴った手紙が添えられてありました。

……昨年の1月、38年余り経営をしておりました会社を閉じることにしました。世の中の風をまともに受け、色んな事を勉強させられました。これも私たちに必要だったものと受け止めております。……(一部抜粋)

会社を閉じるというまことに厳しい状況にありながらもなお、お寺へご懇志を送られようとする、そんなKさんの尊いお心遣いにただただ頭が下がるばかりであります。

お手紙の文面だけでは推し量れませんが、おそらくKさんは会社存続のため、あらゆる手立てを講じられたことだと思います。
しかし、今日のようにグローバル化した経済構造にあっては、好不況が世界的規模で起こることがあり、そんな時は、一個人の経営努力や経営手腕だけでは到底防ぎきれないものがあります。それは、一昨年アメリカで起こったリーマンショックによる世界同時不況が、今なお日本の景気に深い影を落としていることを思えばよく分ることです。
Kさんが「世の中の風をまともに受けた」と仰っているのはそのあたりの事情もおありではなかったかと思います。

いずれにいたしましても、長年経営された会社を閉じねばならなくなったKさんの無念さや寂しさを思うとき、その心中はいかばかりかと、察するに余りあるものがあります。

しかしKさんは、そのお手紙の中で愚痴めいたことや言い訳がましいことは一切おっしゃっていません。それどころか、「今回のことで色んな勉強をさせられた。これも私たちに必要だったものと受け止めている」と言われるのです。

会社閉鎖という人生最大の難事を、このように受け止めていかれるKさんの生き方に私は心から共感を覚えます。まさにお念仏の人生観に通じるものがあると思います。

ここで改めて念仏者の生き方というものを振り返ってみたいと思います。

親鸞聖人は常々、「信謗共に因となして、同じく往生浄土の縁を成ぜん」とおっしゃっていたと言われています。

どういうことかと言いますと、「私の人生に起きる一切の出来事はお念仏を喜ぶこよなきご縁なんですよ」とうことです。

さらに言えば、「この世に無駄なもの、役に立たないものはない一つない」ということです。
あらゆるものに意味があり、あらゆるものから学ぶことが出来るのです。

妙好人(篤信の念仏者)として名高い源左さんは、どんな時でも「ようこそ、ようこそ、南無阿弥陀仏」と過ごされたと聞きます。
「私の人生に何が来てもかまいません。なぜなら、その総てがお念仏を喜ぶ大事なご縁なんです」と、一切の出来事を恵みとして受け止めていかれました。

また、生涯、親鸞聖人を敬慕してやまなかった小説家・吉川英治氏は好んで、「我以外皆我師也」という言葉を書かれたといいます。
「私以外の総ての人は、皆、私の先生である」というのです。これはどんな人に出会っても、そのすべての人から学び取ることが出来ると受け止めていかれたのです。

このお二人の生き方を通して、お念仏の人生観というものがよく分ると思います。

また、宗旨は違いますが、曹洞宗の開祖である道元禅師は次のようなことを語っています。

「自己をはこびて万法を修証するを迷いとし、万法すすみて自己を修証するを悟りとす」

いささか難しい言葉でありますが、「自己をはこびて万法を修証するを迷いとする」というのは、自分の分別で人生のあらゆる事を、役に立つか立たないか、敵か味方かといったように分類し、役に立つもの、味方になるものだけを受け入れていこうとする、そういう生き方は「迷い」だと言われるのです。
そうして「万法すすみて自己を修証するを悟りとする」というのは、私の人生に起きるあらゆる事は、私に何かを教えようとして存在しているのだと受けとめていく、そういう生き方が目覚めた生き方(悟り)だとおっしゃるのです。

こうしてみますと、禅宗の悟り(あらゆる事は、私に何かをしえようとして存在しているのだと受け止めていく生き方)と、念仏者の人生観(この世に無駄なものは何一つないと受け止めていく生き方)は、ほとんど同じ事を説いているのだなということがよく分ります。

思えば、私たちの人生は決して平坦ではありません。色んな事でつまずき、色んな事で立ち止まってしまう私たちです。
しかし、どんな時にも、どんな立場におかれても、また相手がどんな人間であろうとも、そしてまたどんな目に合わされようとも、その総てが私にとって必要なものであったと頂くことが出来れば、必ずや、生まれた価値のある、生きた甲斐のある人生が恵まれるのです。

『一切を頂き、一切から学ぶ』
このような智慧ある人生を歩みたいものです。


「テレフォン法話」開設中 0897(53)4585


法話を聴くためにはフラッシュのプラグインが必要です。